あづみのメモ帳

安いからといって今P1Sを買わないほうがいい理由を実体験からまとめてみた

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Bambu Lab製の3Dプリンタはその性能などから高い人気を誇っている。P1Sは最初期からBambuを支えた主力機であったが、つい最近後継機であるP2Sがようやく発売された。型落ちとなったP1Sはより安価に手に入るようになり、新機種だったころの評判がよかったこともあって、購入を検討している人が多いと思われ、実際購入している人も多く見られる。しかし、P1Sが高性能とされたのは過去の話であり、今となっては下位機種と比べても苦しい部分が多々見受けられる、所詮型落ち機である。ここでは、自分が実際にP1Sと新しめの下位機種であるA1 miniを使った体験と、P2Sに関する情報収集から、オンボロP1Sを間違って購入する悲劇から未来ある若者を救いたいと思う。なお、H2シリーズは興味がなく情報を集めたこともないため、ここでは比較を行わない。

ベッドレベリング

3Dプリンタを使ううえで重要かつ面倒な手順として有名なものの一つがベッドレベリングである。Bambu Labの3Dプリンタはそんな手動でのベッドレベリングが不要であり、これが「一般人」への普及に一役買っているといえる。Ender-3の時代からすれば自動であるというだけで万々歳と思われるかもしれないが、現代では自動ベッドレベリングにも優劣というものが存在する。

一言で言ってしまえば、P1Sのベッドレベリングはありえないくらい遅い。50mmほどの間隔でノズルがベッドに触れていきベッドの高さを測定していくのだが、1点ごとに2秒ほどかかる。さらに、2列くらいの頻度でベッドを5秒間くらいきゅるきゅる振動させる謎の儀式が挟まる。さらに、毎回全ての点が測定されるため、造形物が小さかったとしても無駄に時間がかかる。Ender-3を手動で調整するのよりも長い時間がかかっているのではないかと思わされる。ちなみに、途中の謎の儀式は原点復帰時など別の場面でも発生し、いちいちこちらの精神を逆撫でしてくる。ベッドが上下するタイプゆえに仕方のない動作なのかと思っていたが、P2Sではこの儀式は存在しないようで、謎である。

一方、A1 miniのベッドレベリングは非常に高速である。1点あたり0.5秒程度で測定が行われるうえ、実際に造形する範囲だけが測定されるため、小さい造形物であれば数秒で終わってしまう。P1Sと同じ造形サイズのA1無印でもわずかに遅い程度で十分高速である。

P2Sについては未所持のため詳しいことは分からないが、少なくとも部分ベッドレベリングには対応している(この動画の1:16:40-)ようなので、P1Sよりは間違いなく高速である。

一応、P1Sにも数点のみ測定して前回と変化がなければレベリングを省略する機能があるのだが、実際にこれが発動して短時間で終わることは、体感で200回に1回程度しかない。3個体ほど使用したことがあるが全てそうなので、特別調子が悪いのではなくそういうものなのだと思われる。

ベッドレベリングが長いと、造形失敗リスクと時間とを天秤にかける判断を毎回強いられ、非常にストレスが溜まる。毎回有効にしても時間がかからない現代的な機種を強く推奨する。

フローダイナミクスキャリブレーション

FDM方式の3Dプリンタでは、フィラメントを押し出す量の精度は非常に重要である。溶けたフィラメントは流体であるため、エクストルーダの出力が変化してからノズルの先端から出てくる量が変化するまでの間には時間差が存在する。Bambuのプリンタにはこれをファームウェア側で補正する機能が搭載されているが、この特性はフィラメントの状態によって変化するため、適宜校正を行う必要がある。

P1Sにはこれを自動校正する機能はなく、サンプルを刷って一番良いっぽいものを目視で選ぶという昔ながらの方法でしか校正ができない。フィラメントを変えるたびにこれを行う必要があるのは非常に面倒で、品質劣化の可能性と手間とを天秤にかける必要がある。

X1CではテストパターンとLiDARによる校正が可能であり、A1シリーズとP2Sではツールヘッドに内蔵された渦電流センサによる校正が可能である。ベッドレベンリング同様印刷の直前に行うことができ、フィラメントを変えたあとなどの最初の印刷時にオンにしておけばよいだけである。

なお、定常的な流量(フローレート)はフローダイナミクスとは異なるものであり、これは純正フィラメントならあまり気にする必要がないとは言われているが、問題になれば校正する必要がある。これを自動校正できるのはX1シリーズのみである。P1SだろうがA1だろうがP2Sだろうが、一つ印刷するのに何分もかかるサンプルを何個も刷って目視で選ぶという苦行が求められる。次はここをなんとかしてほしいものだ。

ノズルクリーニング

ノズルを過熱すると押し出していなくてもフィラメントが垂れてくるので、造形前の準備段階では適宜拭う必要がある。Bambuの3Dプリンタにはノズルワイパが設置されており、そこにノズルを移動させることで自動で掃除が行われる。

しかし、P1SのノズルワイパはPTFEチューブに引っ掛けるだけの非常にお粗末な構造をしている。取り切れなかったゴミは平気でベッドの上にぶちまけられ、当然のように造形物に絡まってくる。箱の下の部分にも大量のゴミが溜まり、それでいて出口には段差があって掃き出すこともできない。

A1シリーズではゴムでの拭き取りと金属での切り取りの二段構えのワイパが採用されており、しっかりと掃除される。また、ベッドスリンガ方式であるため、ノズルがベッドの上を通過しなければならない距離が短く、たとえ取り切れなくてもベッド上にゴミが落ちることはほとんどない。

P2Sではパージシュート自体の構造はそのままにワイパ部分が変更されているようであり、改善が期待される。また、出口の段差もなくなっている(ということは床にゴミが溜まるのは変わらないのか……)。CoreXY方式であるためツールヘッドのベッド上の移動距離が長いのは変わらず、A1シリーズよりはゴミが落ちやすいかもしれない。

P1Sのノズルワイパ
A1 miniのノズルワイパ

ホットエンド

3Dプリンタのホットエンドは掃除やノズル径の変更のために脱着が求められることがある。

P1Sのホットエンドは、冷却ファンとヒータおよびその配線などが一体になっている。さらに、これらはネジで固定されている。ノズルを交換したいだけであってもケーブルのちっさいコネクタを外して六角レンチをぐるぐる回して……という手順が求められる。

A1シリーズやP2Sではヒートシンクとノズルのみのホットエンド単体で脱着が可能である。配線はなく、固定は磁石とラッチのみで工具も不要で、片手で行える。

工研ではA1 miniが導入される前、P1S用の0.2mm, 0.8mmノズルを購入していたのだが、交換の面倒臭さから一度も使われたことはない。A1 mini導入後であれば簡単に交換できるそちらを買っていただろうに、勿体ない話である。

ビルドプレートの固定

Bambuのプリンタのビルドプレートは磁石で固定されており、簡単に付け外しができる。取り付けの際には造形領域がはみ出さない程度に正しい位置に固定する必要がある。

このプレートの位置合わせにP1Sでは少し手間がかかる。一応ガイドのようなものがあるのだが、かなり浅い角度で入れないと機能せず、何も考えずに置こうとすると左右方向がズレて何度かやり直す羽目になる。あまり角度が浅すぎると今度は磁力でくっついてしまうのでまあまあシビアである。

A1 miniではある程度角度がついていても、奥に突き当てれば左右方向の位置もしっかり定まり、そのまま下ろすだけで定位置に固定できる。P1Sと同じプレートを使うA1無印でもA1 miniと似たような場所にガイドが追加されており、A1 miniほど確実には固定できないと言う人もいるものの、それなりに改善されているように見える。P2SではA1無印にあるガイドに加え、手前にもガイドが追加されているようで、さらに確実に位置合わせができると思われる。

P1Sのプレート固定ガイド
A1 miniのプレート固定ガイド

ハンドル

3Dプリンタは基本的に一旦設置したら移動させることはほぼないが、メンテナンスや模様替えなど全くないわけではない。特殊な例として、工学研究部では調布祭で展示教室でも作業ができるように移動させることがある。

P1Sは箱型のため、移動させる際は抱えるようにして持ち上げる必要がある。しかし、筐体には手をかける場所がなく、底面を持つ必要がある。置く時に手を挟む危険があるほか、リブのような形状があるため面ではなく線で支えることになり、指にやさしくない。

P2Sでは側面に手をかけられる凹みが設けられており、持ち上げやすくなっている。なお、エンクロージャのない機種については、A1無印は門型の部分を持てるし、A1 miniはそもそも軽量なのでどう持っても困らない。

ユーザインタフェース

3Dプリンタは基本的にG-codeを与えることで自動で動くが、造形以外の設定などでは手動での操作も存在する。ベッドの余熱などのほか、今時のプリンタの場合はフィラメントの設定やネットワークの設定などもある。

P1SのUIは文字主体の低解像度なモノクロ液晶と粗末な十字ボタンで構成されている。また、処理能力が低くて操作に対する応答が遅く、ちょっとヘッドを動かしたり温度をいじったりしようとするだけで苦しくなる。押し込みダイヤル1つのEnder-3のほうが格段に扱いやすいレベルである。

X1シリーズを含む他のBambu製プリンタはカラーのタッチスクリーンを搭載しており、操作性は格段に向上している。温度をテンキーで入力できたりするのは地味に便利である。

カメラ

今時のネット接続できる3Dプリンタには、監視用のカメラが搭載されていることが多い。Bambuのプリンタにもカメラがあり、パソコンやスマホから状況を確認できる。

しかし、P1Sのカメラは解像度が720pなのはともかく、フレームレートが0.5fpsとほぼ静止画のようなものになっている。たとえばツールヘッドに邪魔されて見えない場所がある場合、そこを確認するのに数秒待たなければならないことになる。これはA1シリーズでも同じである。

X1シリーズやP2Sでは1080p, 30fpsのカメラが搭載されており、監視に困ることはないと思われる。

庫内照明

エンクロージャ付きの3Dプリンタの場合、目視やカメラで庫内の状況を見るにあたり、照明が必要になることがある。

P1Sには一応庫内を照らす照明がついているが、非常に暗くほとんど役に立たない。上面は透明なので周囲が明るければ光が入るが、上にAMSが乗っていたり部屋が暗かったりすると見辛い。

P2Sでは照明も強化されているようで、カメラの性能向上と合わせて監視がしやすくなっていると思われる。

音声通知

昔からよくある遊びとして、交流モータやステッピングモータのコイルをスピーカとして使って音を鳴らすというものがある。Bambuのプリンタではこれを造形開始、終了の通知に利用している。

音声通知機能はA1シリーズで導入されたものであり、P1Sには存在しない。この程度ソフトウェアの更新で追加できそうに思えるが、今のところ実装される気配はない。

静かな部屋であれば造形の騒音がなくなることで終了に気づくことができるが、工研部室のようなもともと騒がしい環境では気づかないことも多く、P1Sの近くに人がいないときには放置されがちである。必須というわけではないが、あれば便利な機能といえる。

造形領域

正直どうでもよいが、あまり知られていないP1Sの欠点として、ベッドの左下の一部領域が使えないという点がある。この部分にフィラメントカッターのレバーを押すための突起が配置されているためである。256mm四方ギリギリを攻めようとすると困るかもしれない。A1シリーズやP2Sでは全領域が使える。

あとがき

P1Sは発売当時こそ最新鋭の最強機種であったが、現代では所詮型落ち機であり、下位機種にすら劣る部分が多々存在することを理解しなければならない。初心者だからそんな機能要らないし……みたいな考えも禁物で、初心者だろうと上級者だろうと道具は使いやすいに越したことはない。3Dプリンタで得たいのはきれいな造形物や楽しさであって、苦痛やストレスではないはずである。安さとかつての栄光に騙され、安物買いの銭失いをしてしまわないよう、十分注意して選んでほしい。

当初はA1シリーズと比べたP1Sの欠点をまとめることが目的だったが、P2Sではスペックの数値的な向上だけではない改善がなされていることが分かった。Bambuがユーザの意見をきちんとフィードバックしていることが伺える(最初からやっとけよと思う部分もまあまああったが)。この調子で3Dプリンタというものがより洗練された道具になっていくことを期待したい。